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福岡地方裁判所小倉支部 昭和44年(ワ)1277号 判決

主文

被告は、原告に対し、金五七万五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四三年一二月二三日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の第一次的請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、原告において金一五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、第一次的請求として、「被告は、原告に対し、金六七万五、〇〇〇円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

「一、被告は、マイカークラブサービスステーションの名称で中古自動車の販売等を行なつていたものであるところ、いすずベレット一六〇〇GT一台(登録番号福岡五ひ五七六三、型式PR九一―四一、車台番号PR九一―四二〇四四五四、原動機の型式G一六一、以下本件自動車という。)が訴外いすず販売金融株式会社(以下訴外会社という。)の所有であり、被告において手付金を支払つてこれを買受けた事実がないのに、昭和四二年九月二日頃、原告に対し、「本件自動車は貴方が買うと思つたから、博多トヨタに手付金を入れて自分が譲受けて来た。貴方に買受けを断わられては自分はどうして良いか判らない。自分も金二万円程損をするが金五七万五、〇〇〇円までまけるから私を助けると思つて買つて下さい。」等と虚偽の事実を述べ、同月四日、原告を誤信させて本件自動車買受けの意思表示をなさしめ、同日原告から右代金五七万五、〇〇〇円を受取つた。

二、ところが、原告は、本件自動車の引渡を受けたものの、被告は、その後本件自動車の登録名義変更の手続をせず、時日が経過するうち、昭和四三年九月一二日、原告は、訴外会社より本件自動車の仮処分を受け、止むなく同会社に本件自動車を引渡し、その時初めて被告に右金五七万五、〇〇〇円を騙取されたことに気付いた。

なお、原告は、被告に対し、昭和四三年一二月一四日到達の内容証明郵便により、本件自動車買受けの意思表示は、被告の詐欺によるものであるからこれを取消す旨の意思表示をした。

三、よつて、原告は、被告の詐欺により金五七万五、〇〇〇円の損害を蒙つたから、右金員および本訴提起に要した弁護士費用金一〇万円合計金六七万五、〇〇〇円の支払を求める。」

と述べ、

仮に第一次的請求が認められないとしても、第二次的請求として、主文第一項および第三項同旨の判決と主文第一項につき仮執行の宣言とを求め、その請求原因として、

「一、前記のとおり、原告は、昭和四二年九月四日、被告より本件自動車を金五七万五、〇〇〇円で買受け、即日右代金を支払い、本件自動車の引渡しを受けたが、被告において本件自動車の登録名義変更の手続をせず、時日が経過するうち、昭和四三年九月一二日、本件自動車の所有者と称する訴外会社より本件自動車の仮処分を受け、止むなく同会社に本件自動車を引渡した。

二、そこで、原告は、被告に対し、昭和四三年一二月一三日頃到達の書面をもつて、民法第五六一条本文により同月二二日限り本件売買契約を解除する旨の意思表示をなした。

三、よつて、原告は、被告に対し、支払ずみの売買代金五七万五、〇〇〇円およびこれに対する契約解除の日の翌日である昭和四三年一二月二三日より完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

と述べた。

被告は、「原告の各請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「原告主張請求原因事実のうち、被告が原告主張の名称で中古自動車の販売等を行なつていた者であること、原告が本件自動車を代金五七万五、〇〇〇円で買受け、被告が右代金を受領したこと、以上の事実は認めるが、その余は争う。

被告に対する本件自動車の売主は、志麻中央自動車センターの代表者石井武己であつて、被告ではない。すなわち、被告は、原告の自動車購入方の斡旋依頼に応じ、右依頼の趣意を誠実に実行した結果、右石井と原告との間に本件自動車の売買契約が成立したものであり、その間、被告は、原告主張の欺罔行為をなしたことはない。被告は、右石井において本件自動車を適法に販売する権限を有するものと信じていたものであり、さればこそ同人に対し、原告のため本件自動車の買受けを確保する目的で手付金四万円を立替え支払い、また被告が右石井に代つて原告より受領した代金は即時右石井に手渡しており、もしその売主である同人において本件自動車を買主である原告にその権利を移転しえないとすれば、同人により原、被告共に欺罔されたという外はなく、原告が蒙つた詐欺による損害につき、原告において賠償を請求すべき相手は、右石井であつて、被告ではない。

また、本件自動車の登録名義を原告名義へ変更すべき義務を負つたものは、当然その売主である右石井であり、原告もこれを了承していたものである。」

と述べた。

立証(省略)

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